薬の内服や手術なしで、症状を軽減するために。
プロトンポンプインヒビター(PPI 胃酸を抑制する薬)を内服するなど、薬物治療を行って、症状が軽快しても、薬を飲まなければ、また、すぐに逆流性食道炎の症状が、ぶり返してきます。
「今までの生活習慣を継続していては症状がなくなることはない」と考えてください。薬は飲みたくない、生活習慣も変えたくない、というわけにはいかない病気なのです。
鏡を見てください。子供の頃に、そんなに皺がありましたか?顔と違い、鏡で見ることは出来ませんが、胃と食道の間がゆるんでいるのです。だから、今までの生活習慣には耐えられなくなっているのです。
よく、当院の外来では、胃食道逆流症(逆流性食道炎)の患者さんの胃を、古い焼却炉にたとえます。
私が小学校の時には、今のようにダイオキシンの問題は取り上げられておらず、可燃性のごみは自分の学校の焼却炉で燃やしていました。
この焼却炉は鉄製で、古くなると、蓋がだんだんさびて、穴があき、火が穴から外に吹き出ていました。
蓋がちゃんとしている時には、短時間できれいに燃やすために、火は強い方がいいのですが、蓋が壊れてくると火は弱めなければなりません。そうしないと、吹き出た火が炉の周りにあるものを焼いてしまいます。
胃食道逆流症(逆流性食道炎)も蓋(胃食道接合部)がきちっと閉まっていないのに、火(酸)は強いままという時に、最も症状が強くなります。食道が焼けるからです。
蓋をきちんとしめるということは、胃食道接合部を緩まなくするということです。すなわち、キチンと治療するということになると、緩みが不可逆であるのであれば、手術(Nissen法など、最近では腹腔鏡で施行されることが多い)が必要ということです。
また、火(胃酸)を弱くしてやろうとすると、胃酸を弱める薬(プロトンポンプインヒビター、H2RAなど)によって、胃液のPHを上げてやることが必要になります。逆流をしても、酸が弱ければ、傷害は少ないというわけです。
手術や薬は効果的ですが、生活習慣を変えることが、胃食道逆流を軽減することにも有効です。
生活改善での逆流性食道炎の治し方を考えましょう。
逆流性食道炎の症状を防ぐ具体的な生活習慣の改善(治し方)
① 姿勢
猫背にならない。 背筋はぴんと伸ばす。寝る時は枕を高くし、右下で寝る。
蓋が閉まっていないビンでも、中の水をこぼさないように運ぶことは可能です。それはなぜか?ビンの口を常に上に向けておけばいいのです。基本的には胃の中でも、液体は重力に従います。蠕動運動の働きで、逆立ちをしても液体は十二指腸から小腸と流れて行きますが、これは絶対的な力ではなく、重力は胃の中でも影響が大きいのです。胃の口を上にし、食道に逆流しないようにする。すなわち猫背にならず、背筋を伸ばした姿勢が有効です。
また、寝る時に枕を高くすることなどで、上半身を少し起こした状態でも、かなり食道への逆流を防ぐことができます。寝て左下や上向きになると、胃の上の方に胃液がたまります。この状態では食道の出口と逆方向になるので逆流しませんが、溜まった左下の状態から仰向きから右下になるとむしろ激しく逆流します。右下にすると、胃液は十二指腸にも流れますが、食道にも逆流します、夜寝返り打つを考えると、やはり、上半身を起こして、少し高くすることが大事だろうと思います。介護用のベットはボタン一つで上半身を起こすことが可能です。こういった道具を使うのも一つの手だと思います。
② 食べ物とお酒
さて、生理的に強い胃酸が必要な状況とはどんな時でしょう。まず、たくさん食べれば胃酸は沢山出ます。また、胃は袋状ですから、たくさん食事をとれば、袋が伸び、入り口が閉まりにくくなります。ゴミ袋も必要以上に詰め込むと口を閉められませんね。つまり、食べすぎは胃食道逆流を起こしやすい状況を作ります。
食事の種類はどうでしょう。一般に脂肪の多い食事、揚げ物などは胸焼け(胃食道逆流の典型的症状)を起こしやすいようです。他にはチョコレートやケーキなどのお菓子類も、胸焼けを起こしやすいと言われています。また、野菜でもかぼちゃやさつまいも、柑橘類などは胸焼けを起こしやすいと言われています。一般的にカロリーの高いものは胸焼けを起こしやすそうですね。
胸焼けを起こす食物は人によって多少違います。自分の胸焼けが起こりやすい食べ物を知りましょう。胸焼けを起こす食事を避けることも重要な治療です。ある患者さんは、家での揚げ物は問題ないが、コンビニの弁当の揚げ物ではすぐ胸焼けがすると言っています。酸化した油のせいか、油の種類のせいかわかりませんが、同じ食べ物でも作り方により胸焼けがする場合としない場合があるようです。
また、精神的なストレスが溜まってくると、消化管の動きが制限され、胃食道逆流が起こりやすい状況が生まれてきます。
お酒はどうでしょう。アルコールは噴門機能(胃の入り口)をゆるめると言われています。また、炭酸飲料はお腹がふくらみ、胃食道逆流を起こしやすい状況を作ります。ビールは胸焼けを助長しそうですね。
暴飲暴食は避け、油っぽいものは程ほどにするのがよいでしょう。
③ 締めつけ、太鼓腹
太ると、ベルトがきつくなります。ズボンもきつくなりますが、多少太っても、ボタンを掛けることができるうちは無理にでも履く人も多いでしょう。シャツもパンパンになりながら無理に着る場合があります。外から体が締め付けられます。この状態で食事をするとどうなるでしょうか?胃や腸に食物が入ると、お腹はふくらみますが、前に膨らむスペースがないので、上向きに圧迫がかかります。結果として横隔膜が伸び、胃が横から締め付けられ、食道裂孔が広がり、胃液の逆流の起き易い状況が生まれてきます。
やせる事がもっともよいことですが、ベルトやボディスーツは締め付けすぎないように気をつけましょう。
有酸素有酸素運動とトレーニング
自分も胃食道逆流持ちなので、よく、胸焼けがします。この時に有効なのが、汗をかくまでしっかり運動することです。教科書にはあまり載っていないのですが、自分の場合は、胸焼けはかなり改善します。とくにランニングは有効です。
理由として、
①汗は弱酸性なので、体全体のPHのバランスから、胃酸として分泌される酸の総量が減ること。
②運動により、消化管の蠕動運動が活発になり、胃液が十二指腸から小腸への順方向に移動していくこと。
③運動により姿勢が改善され逆流が起こりにくくなること。
焼き肉では牛の横隔膜をはらみと言います。つまり筋肉です。胃から食道への逆流は下部食道括約筋と横隔膜のしめつけでふさいでいると言われています。運動やトレーニングで横隔膜を鍛えることが出来ると、逆流を抑制することができるかもしれません。横隔膜を鍛えると結果的に逆流が減るかもしれませんね。ただ、こういったトレーニングや運動と逆流に関する研究はほとんど行われていないと思います。定量性が難しく、論文になりにくいからだと思います。
筋トレのみや、汗をしっかりかくまで運動しないと、むしろ逆効果のこともあります。筋肉に乳酸が溜まり過ぎない程度に運動強度もほどほどにしましょう。
さて、胸焼けに限らず、症状が強いとそれだけで不安になります。胸のつかえ感は癌じゃないだろうかと不安になります。不安は消化管運動を弱め、胃食道逆流を助長します。不安を解消することも重要な要素です。
専門医に見てもらうだけで、症状が軽減する人が少なからず存在します。精神的なストレスが減って、消化管が順方向に動き始めるのかもしれません。お医者さんも利用しましょう。