高血圧をどう考えるのか?

高血圧とは何でしょう。まずガイドラインの基準から考えてみますと、5年ごとに更新される日本高血圧学会のガイドラインが有名で。多くの日本の臨床医はこれを高血圧のガイドにしています。2022年3月現在、2019年のものが最新です。5年ごとに改訂されます。最近では2009,2014,2019年と改訂が行われています。改訂されたガイドラインによって高血圧の基準は少しずつ異なります。新しい研究によって目標値が変わり、新しい薬の登場もあって、ガイドラインは変化していくわけです。例えば2004年の、JSH2004の高血圧ガイドラインにおける降圧目標値は、欧米にならって、年齢によらず140/90mmHgとされていました。しかし、元々のJSH2000では、拡張期(いわゆる下の血圧)は90以下ですが、収縮期血圧(いわゆる上の血圧)について高齢者では、年齢層別に、60歳代で、140mmHg未満、70歳代では、150mmHg未満、80歳代では160mmHg未満と、欧米のガイドラインと異なった目標値を設定していました。2000年から2004年で少し単純化されたのです。逆に2009年以降は、どんどん、高血圧とその降圧目標は細分化され、2019年度版では、年齢、基礎疾患、家庭内血圧や診察室での血圧などによって、より細かい降圧目標と指導が示されるようになってきています。

ガイドラインは大変多くの研究者が関与して作られており、治療や生活指導においてはとても参考になるのですが、ただ、いくらガイドラインは変わっても、人そのものや、取り巻く環境、つまり、遺伝子や現代の生活習慣はあまり変わっていないという現実もあるわけです。

このミスマッチが臨床の場に混乱を招きます。なぜなら、高血圧のガイドラインが細かくなればなるほど、患者さんにとっては理解が難しいものとなってくるからで、本当に合併症を起こしやすい基礎疾患を抱える多くの人は、そもそも、情報収集が苦手だったり、理解力が落ちた高齢者であって、あまり複雑な基準も判らないし、そもそも基準の元となるエビデンスという概念も理解出来ないからです。

この基準をずっと守り続け、しかも低血圧の合併を起こさずに薬の投与を行うには、患者さんの自宅での頻回な血圧測定と、薬への理解が必要です。これを多くの人に行う事は無理です。

結局、血圧を下げるというのは動脈硬化の進展予防という色合いが強く、降圧薬でコントロールされている人でも、症状がない人が大半であり、血圧が高い状態が続けば、動脈硬化が進み、脳梗塞や心筋梗塞といった病気が発生しやすくなるという予測のもとに治療が行われています。高血圧は、「脳梗塞などの症状が出現する確率が高い状態そのものが病気である」という概念において、病気とされているにすぎません。

多くの高血圧は本来の病気ではなく、加齢や、体質や、生活習慣の変化による結果です。精神的なストレスも血圧上昇の大きな要因です。

たしかに、高血圧の患者さんのなかには、血圧が高くなると、めまいがおこったり、体の不調を訴える患者さんがいます。逆に正常より高くても、血圧を下げると調子の悪い患者さんもいます。しかし、未治療であれば、常に収縮期の血圧が200以上になってしまうような脳出血のリスクのある患者さんはそう多くないと考えられますし、高血圧の人でも、血圧が飛び切り高くなる時期を除けば、めまいなどの症状は、そう出ないものです。

こう考えると血圧のコントロールには2つの意味があると考えられます。一つ目は、血圧が急に上昇することによる症状や疾患を防ぐこと。たとえば、高血圧脳症や脳出血を起こさないように、普段の血圧のベースを下げておくこと、もうひとつは、動脈硬化が進んで、血管が詰まる梗塞が起こさないように、血管の側壁にかかる圧力を、組織が必要とする最低の圧力よりは高く、しかし、不必要に高くしないということです。血圧は急に下がりすぎると、むしろ梗塞が起こりやすくなりますから、コントロールには時間をかける必要があります。

加齢により血圧が上がるのは、動脈硬化が進んで、高い血圧を組織が求めるからとも考えられます。しかし、人間の生理的な機序として、必要以上高く血圧は上がってしまうものです。その圧の上昇がさらに動脈硬化を進行させると考えています。不必要な圧の上昇のみ削り取る必要があります。しかし、血圧は一定ではありません。あるときは充分な降圧効果を持った薬剤が、ある日は効かなかったり、ちょうどよい量と考えた薬剤が低血圧を起こしたりします。脳出血を起こさないように200mmHg以上の血圧にしてはいけませんが、動脈硬化を進めないように血圧を下げると調子が悪くなったり、脳梗塞を起こす危険さえあります。

どうしたらよいでしょう。

地図がなければ先には進めません。そこで当院で、どのガイドラインを基準に考えるかを決めなければいけないと思われます。

ガイドラインはごく一部の学会員が決めたコンセンサスであり、絶対に正しいというわけではありません。正しいのであれば、何年かに一度もガイドラインが変わるわけがありません。人間そのものに変化はありません。いろいろな研究結果を検討してみて、これがよいだろうと結論しているにすぎません。しかも、実際の通院患者の約30%程度しか、規定を満たしていないとも言われている厳しい基準なのです。世界的な傾向としてガイドラインはどんどん厳しくなります。いくら正しい事が書いてあっても、守らなければ全く意味はありません。太った脂肪肝(NASH)の専門家や、太った糖尿病の専門家も知っています。論理を知ることも大事ですが、実践が一番大事です。ただ、実践は大変むつかしい。

ガイドラインを遵守しようと投薬を調節しようと薬が沢山必要で、患者さんにも多くの努力を強います。沢山の薬を飲めば副作用も増えてきます。

また、医師に、自分の生活を含めた一貫性がなければ、信頼を失います。

高血圧に関して2000年の本邦のガイドライン(JSH2000、単純かつ高齢者の降圧目標の比較的厳しくない基準)をベースラインに置き、2019年のより新しく細かなガイドラインも参考に治療を行っています。血圧のコントロールに幅を持たせて、持続可能なコントロールが出来るようにするべきと考えています。

(日本高血圧学会2000年版、日本老年医学会2002年版)

 カテゴリー 降圧目標
 年齢別 60歳未満 130/85mmHg未満
60歳代 140/90mmHg未満
70歳代 150/90mmHg未満
80歳代 160/90mmHg未満
 糖尿病 130/85mmHg未満
 腎疾患 130/85mmHg未満
尿蛋白>1g/day 125/75mmHg未満
 虚血性心疾患 140/85mmHg未満
 脳血管障害(慢性期) 2-3ヶ月間 150-170/95mmHg未満
最終目標 140-150/90mmHg未満

 

高血圧をどう考えるのか?

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