大腸ポリープという名称は、病気の名前ではなく、大腸粘膜の限局性の隆起をすべて指します。すなわち大腸(結腸と直腸を合わせ大腸といいます)の管の中にポコっと盛り上がっている病変はすべて大腸ポリープと診断されます。その中には大腸がんなどの腫瘍性の病変や、粘膜が炎症などにより反応性に隆起した病変も含まれます。しかし、一般的に問題になるのは腫瘍性ポリープの、大腸がんと腺腫です。がんは勿論、治療の対象となりますが、腺腫性のポリープも治療が必要と考えられます。癌(グループ5)というのは、転移をしたり、周りの臓器を直接壊したりするので、悪性腫瘍と言われますが、腺腫ではそのようなことはなく、良性腫瘍(グループ3)と言われます。しかし、良性という言葉からうけるイメージと、実際とでは、少しニュアンスが異なります。つまり、がんを犯罪者にたとえるなら、腺腫は犯罪予備群で、何もしないかもしれませんが、放置しておくと、がんになって悪い事をすることもあるという存在です。 大腸がんの多くが、この腺腫から発生すると言われており、この腺腫性の大腸ポリープが大きくなればなるほど、がんが混じる頻度が高くなってきます。腺腫の中に癌が混じった状態を腺腫内がんと言います。腺腫は遺伝子のレベルでの変化が既に起こり、元の正常粘膜に戻ることができないと考えられていますので、悪さをする前に取ってしまった方が良いと考えられています。表はわたし(加藤)が愛知県がんセンターにいたときにまとめた、1990年から2002年までの大腸ポリープと大腸がんの頻度です。 5mm未満のものではがんの頻度はわずかで、大きくなるにつれ、がんの割合が増えていきます。全国的にもほぼ同様の結果が出ています。5mm未満の小さなものでもがんは存在しますが、5mm未満の大腸のポリープ1137病変のなかでがんの成分のあったものは9例で、転移の可能性のある浸潤がんは、わずかに2病変だけです。 こういったことから5mm未満の大腸ポリープは、ポリープ治療に伴う合併症の問題と、手間やコストの面から、経過観察する場合もあります。ただ、 5mm未満の大腸ポリープでも、がんの頻度は0ではありませんし、本人の不安などを考えれば、現在は、小さな大腸ポリープでも腺種であれば取るべきと考えています。20年前はポリープの特に大きさが重要でしたが、現在では、拡大内視鏡と狭帯光観察(NBI、BLIなど)で腫瘍と腫瘍ではないか、癌の合併が疑われるか、それは深く浸潤しているか、かなり正確に判定できるようになっています。また、最近では過形成ポリープなど、従来では癌化がさほどないと思われていたポリープも、かなり癌化のポテンシャルがあると考えられてきており、大きさだけではなく、ポリープの性状や、大腸の中でできた位置など、ポリープのいろいろな性状を考慮する時代となっています。とはいえ、ポリープの大きさは診断と治療を考える上で今でも大事な要素であり、下のようなデーターは貴重なデーターと考えています。
大腸ポリープの長径mm | ポリープ数(癌+腺腫) | 大腸癌の症例 | 大腸癌の比率 | 浸潤大腸癌(sm癌) | ||
下限(≧) 上限(<) | (のべポリープ数) | (癌の症例数) | % | (浸潤癌例数) | ||
0~2.5 | 181 | 1 | 0.55 | 0 | ||
2.5~5 | 1056 | 8 | 0.76 | 2 | ||
5~7.5 | 1717 | 58 | 3.38 | 12 | ||
7.5~10 | 787 | 74 | 9.4 | 19 | ||
10~12.5 | 817 | 121 | 14.81 | 35 | ||
12.5~15 | 183 | 42 | 22.95 | 14 | ||
15~17.5 | 248 | 68 | 27.419 | 20 | ||
17.5~20 | 82 | 20 | 24.39 | 10 | ||
20~22.5 | 118 | 29 | 24.58 | 11 | ||
22.5~25 | 21 | 7 | 33.33 | 1 | ||
25~27.5 | 32 | 7 | 21.88 | 2 | ||
27.5~30 | 5 | 2 | 40 | 1 | ||
30~ | 34 | 12 | 35.29 | 2 | ||
合計 5289 病変 | 合計 449病変 | 平均 8.49% | 合計 131病変 |
(愛知県がんセンターで1990年から2002年に切除されたポリープの大きさと癌の頻度
2022/2/20 文責 TKクリニック 消化器科 加藤 徹哉
加藤徹哉です。平成16年に開業間もないころに書いた文章に手を加えました。大腸ポリープの大きさは、大きければ、それだけで、癌合併を考える大きな要素ですが、内視鏡観察では、拡大内視鏡、NBIやBLIといった狭帯光観察が常識になり、表面性状を観察することで、腺種と非腺種、癌の合併、浸潤の有無などが、かなりの確率で予想出来るようになってきています。
とはいえ、バリウム造影やCTを用いたバーチャルコロノスコピーでは、ポリープの大きさで、色々なことを判断していくことが多く、今でも、治療や検査の指針の一番大きな要素の一つです。